こんにちは、札幌にある『カウンセリングこころの羽』の佐々木啓太です。
今、子育ての本では「叱らない育て方」、「褒めて育てる」といった方法が書かれたものがたくさんありますよね。
そんな話だけ聞くと…怒っちゃダメなの?なんでも褒めればいいの?なんて不安になってしまいそうです…
そこで、今回は“褒め方”についてお伝えしていきます。
お子さんへの接し方や職場での部下や後輩との接し方のヒントにしてみてくださいね。
ほめ育てとは?
本屋さんなどの子育ての棚をみると「叱らない子育て」、「褒めて育てる」といったテーマの書籍がたくさんあります。
なぜ褒めるといいのでしょうか?
これは…褒められることで、自分のやったことが認められ「もっと褒めてもらいたい!」「また、やってみよう」という気持ちが芽生える。という人の心理によるものです。
これは子どもも大人も同じですよね。
もう少し心理学的に見ていくと「褒められたい!」という気持ちはマズロー氏の『五段階欲求説』の尊敬、評価の欲求の段階にあたります。
この欲求を満たしてあげることで自己肯定感が向上する…つまり自分に自信が付き、様々なことに挑戦できるということです。
この理論を発表したマズロー氏は、アメリカの心理学者ですが…日本の子どもたちの「自己肯定感」はどうなんでしょう?
少し古いですがこんな調査がありました。
2008年に日本青少年研究所が日本、アメリカ、中国、韓国の中高生を対象に「中学生・高校生の生活と意識」を調査しました。
中室牧子著『学力の経済学』より
その中で「自分はダメな人間だとおもう」という問いで「とてもそう思う」、「まあ、そう思う」と回答した割合が日本が一番多いという結果になりました。
この調査からも日本人の子どもたちは自尊心、自己肯定感が低いことがわかります。
また、この自己肯定感は成長するにつれてどんどん低下していっているんです。
自分に自信がない子どもを増やさないためにも「ほめ育て」という方法が注目されているのかもしれませんね。
たくさんほめればいいんでしょ?
…と思いますよね。
たくさんほめれば自分に自信がついて挑戦できる子どもにそだつはず!というほど人間も単純にはいかないようです。
アメリカで自尊心と学力についての実験がありました。
ある教授が自分の生徒たちに試験を受けさせました。
そして、成績の悪い生徒を2グループにわけ、毎週メールで別のメッセージを送ります。(ここではAとBとします。)
Aグループには宿題に関するメッセージと「やればできる」というような自己肯定感を高めるメッセージ
Bグループには事務的な連絡、自己管理や責任感の重要性を説くメッセージ
そして両グループの期末試験の成績を比べました。結果は…AグループがBグループの成績より統計的に下回りました。
おや?話が違いますねえ。
褒めれば、自己肯定感が高まって勉強にも意欲的に取り組むのではないの?
嘘ついたのか佐々木!
と思われるかもしれませんが…もう少しお付き合いください。
実はこの実験で最初のテストで平均よりやや下だった生徒はAグループ、Bグループのどちらも期末試験では同じくらいの成績でした。
逆に落第または下位だった生徒はBグループの方が成績が良かったのです。つまり、成績の悪い生徒を“ただ褒める”のは、本人たちが“根拠のない自信”をもってしまい、逆効果だったわけです。
ここから言えるのはむやみやたらと褒めるのはよくないということです。
…では、正しいほめ方が“どんな方法”か見ていきましょう。
正しいほめ方とは?
気付いた方もいらっしゃるかもしれませんが…
「自信があるから、学力が高い。」
ということではなく…
「学力が高いから自信がつく」
のですね。
成功経験があり、褒められるからチャレンジできるんです。
実はここに“褒め方のポイント”があります。
前述の通り、手放しで「やればできるぞー、君はすごい!」なんて言い続けても根拠のない自信がだけが身に付き失敗してしまいます。
例えば「きみはテストで苦手なところをよく復習したね!」なんて言われるとどうでしょう。
「自分の頑張ったところを認めてくれたんだ」という気持ちになりませんか?
つまり結果に対してその人の行動を具体的に褒めてあげることで、それが自信に繋がるんです。
こんな実験があります。
子どもたちをランダムに2つのグループに分けIQテストを行いました。
片方には「あなたは頭がいいのね」ともともとの能力を褒めるメッセージを伝えます。
もう片方には「あなたはよく頑張った」と努力を褒めるメッセージを伝えました。
その後、最初より、難易度を上げたテストを行い、その後に最初と同じ難度のテストをし、結果を調べました。
すると努力を褒められたグループの子どもたちは成績を伸ばし、能力を褒められたグループは成績を落としました。
テストの結果の捉え方にも違いが出たそうです。
才能を褒められたグループは「結果が悪いのは、才能がないせいだ。」と考える傾向にありました。
逆に努力を褒められたグループは「努力が足りないせいだ」と考えたようです。
この実験からも分かるように、褒めるのであれば、「本人の頑張ったことを褒めてあげる方法」が効果的。
このことを心理学の面から見ていきたいと思います。
心理学的にみる“正しいほめ方”
心理学の中に『行動分析学』という分野があります。
これは人間を含む動物の行動について行動の原理が実際にどう働くのかを研究する学問のことを言います。
今回はこれを基に説明をしていこうと思います。
今後も何回か取り上げていきたいと思うのでまず、好子(こうし)と強化(きょうか)という言葉を知っていただければと思います。
好子(こうし):行動の直後に出現するとその行動の将来の生起頻度を上げる刺激、出来事、条件
※要するに行動の後にそれがあるとまたその行動を起こしやすくなるもののことを言います。強化(きょうか):行動の直後に好子が出現したり、好子が増加するという経験をすると将来その行動は将来起こりやすくなる。
杉山尚子、島宗理、佐藤方哉、リチャード・W・マロット、マリア・E・マロット 共著 『行動分析学入門』
ちなみに行動分析学でいう‟直後”とは60秒以内です。
例として、勉強することについてみていきます。
これを‟勉強する”という行動の直前と直後に分けてみていきます。
【直前】: 褒められない。
↓
【行動】: 勉強をする。
↓
【直後】: 勉強したことを褒められる
といった感じになります。
直後に起きた「褒められる」というのが好子になり勉強をするきっかけになるんです。
さっきのこととどうつながるの?とお思いかと思います。
努力は行動ですよね。「○○を達成するために努力する」といったように行動の一つになりますね。
【直前】: 称賛無し
↓
【行動】: 問題を解く
↓
【直後】:問題を解いたことを褒められる
という風になります。直後の出来事により、問題を解くという行動が強化されているわけです。
行動分析学は先ほども書いた通り、人間を含むすべての動物を対象にしていますので、会社での対人関係などにも応用することができるアプローチです。
例えば…
仕事の報告をしてくれた部下に対して
【直前】:上司からの誉め言葉なし
↓
【行動】:仕事の報告
↓
【直後】:「お疲れ様、ありがとう」と言われる
ほんの一例ですが、相手の“特定の行動”を続けて欲しいときや強化したい時にこのアプローチをベースに考えていくと人間関係をスムーズにする一つの方法になるかと思います。
もしも、部下が仕事の報告をした直後に「あー分かった。あとで資料見ておくわ。」などの言葉で終了してしまったら…部下の「報告」という行動が強化されないことは明らかですよね(汗)
最後に
今回、取り上げた行動分析学についてはほんの一部分になりますので、また後日、他のアプローチ方法もご紹介していきますね。
最後に行動を強化する方法のポイントをお伝えします。
1.すぐ褒める、すぐ反応する:これは直後の定義にもあったように60秒が肝になってきます。
2.好子(こうし)は人それぞれ:好子になるものは人によって違います。
褒め言葉も選びながらその人に合った言葉がけや行動があります。
「魔法の言葉」を探すのではなく、その人に合った方法を考えてみることが大切ですね。
相手の行動をみて、考えることでその人を知ることが出来るきっかけにもなります。
皆さまの不安や悩みを減らす方法の一つとして役立てていただけると嬉しいです。
『カウンセリングこころの羽・札幌中央店』佐々木啓太